アメリカの陪審制

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    アメリカの陪審制

    アメリカの陪審制
    評議及び評決
    裁判官は、審理が終わった段階で、陪審に対する説示を行う。
    説示の中では、(1)適用すべき実体法、(2)どちらが立証責任を負うかや、立証責任が果たされるに必要な証拠の程度などの証拠法の原則、(3)評決に達するための手続について説明される[95]。
    その後、陪審は法廷から評議室(陪審員室)に下がり、非公開で評議を行う。
    裁判官、訴訟当事者を含め、陪審員以外の者は誰も評議の内容を見聞きすることはできない。
    評議は複数日にわたることもある。
    その結果、評決に達した場合は、法廷に戻り、陪審員長又は書記官が評決を読み上げる。
    連邦及び各州(6州を除く)では、陪審の有罪又は無罪の評決には全員の一致が必要である。
    評決が成立しない場合は評決不能 (hung jury) となり、再度トライアルをやり直さなければならない。
    合衆国憲法上は、12人の陪審員のうち10人の多数決による評決を認める州法も合憲とされたが[98]、6人の構成の場合には全員一致の評決でなければならず、5人の多数決による評決は違憲であるとされた。
    刑事事件では、個々の事実についての認定を示す個別評決 (special verdict) はどの法域でも行われておらず、有罪か無罪かの結論を示す一般評決 (general verdict) である。
    陪審から、評決に達することができないとの報告を受けた場合、裁判官は、場合によって再評議を命じたり再考を促す追加説示をしたりすることもできるが、最終的には評決不能 (hung jury) による審理無効 (mistrial) となり、新たな陪審の選任からの再審理 (retrial) を行うこととなる。
     
    評決後の手続
    陪審が有罪の評決をした場合、裁判官は量刑を行い、判決を言い渡す。
    陪審は有罪又は無罪の判断を行い、有罪の場合の量刑は裁判官が判断するのが原則であるが、州によっては、特に死刑事件など一部の事件で、陪審が死刑適用の当否や刑期についての意見を述べることができるなど、陪審の判断が量刑を決定ないし左右することがある。
    有罪の評決の場合、裁判官が被告人の申立てに基づき、必要な票数が満たされているかを調べるため、個々の陪審員に対し評決に賛同しているか否かを確認すること (polling) が可能である。
    陪審の無罪の評決を裁判官が覆すことは許されないが、陪審が有罪の評決をした場合に、裁判官が被告人の申立てに基づき無罪判決 (judgment of aquittal) を下すことは許されている。


    アメリカの民事陪審

    アメリカの民事陪審
    民事陪審の保障
    民事事件で陪審審理を受ける権利は、アメリカ合衆国憲法修正7条で保障されている。
    すなわち、「コモン・ロー上の訴訟において、訴額が20ドルを超えるときは、陪審による裁判を受ける権利は維持 (preserve) されなければならない。
    陪審によって認定された事実は、コモン・ローの準則によるほか、合衆国のいずれの裁判所においても再審理されることはない。
    」と定められている[105]。
    修正7条は、陪審審理を受ける権利を新たに創設するものではなく、1791年(修正7条を含む権利章典が批准された年)の時点のコモン・ローにおいて存在した陪審審理を受ける権利を維持するものである。
    ここで、コモン・ローとは、アメリカがその時点でイギリスから受け継いだ法制度を意味する。
    1791年当時のイギリスでは、訴訟はコモン・ローの訴訟とエクイティ(衡平法)の訴訟に分かれていた。
    コモン・ローの訴訟においては陪審審理を受ける権利が認められていたが、エクイティの訴訟では認められていなかった。
    1938年に制定された連邦民事訴訟規則2条は、「民事訴訟という一つの訴訟形式のみがある」と規定しており[106]、コモン・ローの訴訟とエクイティの訴訟の区別がなくなったが、今日でも、1791年当時コモン・ロー上のものであった訴訟には陪審審理を受ける権利が認められ、同じくエクイティ上のものであった訴訟には陪審審理を受ける権利がない。
    もっとも、連邦民事訴訟規則によれば、裁判所が裁量で陪審を用いることが許されている[107]。
    ある制定法に基づく訴訟がコモン・ロー上のものかエクイティ上のものかを判断するには、(1)まず、その訴訟と、18世紀当時、コモン・ローとエクイティが一緒になる前のイギリスの法廷で起こされていた訴訟とを比較して、どちらの類型とより類似するかを判断する必要がある。
    (2)次に、求められている救済方法を審査し、その性質上コモン・ロー上のものであるかエクイティ上のものであるかを判断する必要がある[108]。
    救済方法が、金銭賠償だけである場合には純粋にコモン・ロー上のものであり、陪審の権利が認められる。
    差止命令、契約解除、特定履行のような非金銭的救済はエクイティ上のものであるから、陪審ではなく裁判官の判断に委ねられる。
    連邦最高裁は、エクイティとコモン・ロー双方の請求がされているときは、コモン・ロー上の請求について陪審審理を受ける権利は存続し、裁判官がエクイティ上の請求について判断する前にコモン・ロー上の請求について陪審による判断を受けなければならないと判断した[109]。
    刑事陪審と異なり、修正14条のデュー・プロセス条項の内容には含まれないと解されているため、民事事件で陪審審理を受ける合衆国憲法上の権利は、州には及ばない。
    もっとも、コロラド州を除く49州において、州憲法で民事陪審の権利が保障されており、同州においても憲法上の保障ではないものの民事陪審が実施されている[110]。


    陪審審理の要求
    陪審審理の要求
    連邦裁判所の民事事件では、刑事陪審と異なり、いずれかの当事者の要求があった場合に限り陪審審理 (jury trial) が行われる。
    陪審審理を要求するためには、最後の訴答書面が送達されてから10日以内に陪審審理を要求する旨の書面を相手方に送達し、その後相当の期間内にこれを裁判所に提出しなければならず、この手続を行わない場合は陪審審理を受ける権利を放棄したものとして扱われる[111]。
    その場合は裁判官による審理 (bench trial) が行われる。
    もっとも、事実審理(トライアル)前に訴えが却下される場合があるほか[112]、裁判官は、当事者の申立てにより、重要な事実についての真の争いがないと判断する場合には、トライアルを行うまでもなく、サマリ・ジャッジメントという判決で一審手続を終局させることができ[113]、これらの場合は当然陪審審理は行われない。
    またトライアル前に和解が成立して事件が終局することも多い[114](#統計の項も参照)。
     
    陪審員の人数及び選任手続
    イギリス以来の伝統に従い、アメリカの民事陪審も、12人の陪審員で構成されるのが原則である。
    しかし、連邦裁判所における6人制の民事陪審も、憲法修正7条には違反しないとされた[115]。
    連邦地裁では、トライアル開始時の陪審員の人数は、6名以上12名以下の範囲で裁判所が必要と考える人数とされ、トライアルの途中で欠員が出た場合、6名以上残っていれば補充しなくても評決をすることができる。
    また、当事者が合意した場合は5名以下になっても評決をすることができる[116]。
    州裁判所でも、場合によって、6名(あるいは5名以下)の陪審を認めているところが多い[117]。
    民事陪審における陪審員の選任手続は、前述の刑事陪審とおおむね同様である。
    連邦裁判所では、理由付き忌避のほかに、各当事者は3名ずつの理由なし忌避を行使することができる[118]。
       

    評議及び評決
    評議及び評決
    審理が終わってからの説示から評議への流れは前述の刑事陪審と同様である[119]。
    ただし、連邦裁判所の場合、裁判官は、当事者の申立てに基づき、合理的な陪審であれば相手方に有利な判断をするだけの証拠はないであろうと判断するときは、陪審に評議を求める前に法律問題としての判決 (judgment as a matter of law) を下して一審手続を終局させることができる[120]。
    それ以外の場合、裁判官は、陪審に対して評議の上評決を答申するよう求めるが、その際には、原告勝訴か被告勝訴か、また原告勝訴の場合は救済内容(賠償額等)についての結論だけを答申する一般評決 (general verdict) を求めるのが一般的である[121]。
    しかし、裁判所は、各争点についての結論をそれぞれ答申する個別評決 (special verdict) を求めることもできる[122]。
    陪審の評決は全員一致であることが求められるのが普通であるが、連邦裁判所では、当事者が合意した場合は全員一致でなくても評決をすることができる[116]。
    州裁判所でも、場合によって、全員一致を要求しないところが多い[123]。
     
    評決後の手続
    裁判官は、評決に従って判決を下すのが原則である。
    しかし、裁判官は、評決後であっても、当事者の再度の申立てに基づき、合理的な陪審であれば相手方に有利な判断をするだけの証拠はないであろうと判断する場合には、法律問題としての判決によって、評決と異なる結論を下すことができる[124]。
    また、法律問題としての判決を下さない場合でも、評決について証拠上余りにも疑問があるときは、裁判官は、当事者の申立て又は職権により、再審理 (new trial) を命じることができる[125]。
    前述のサマリ・ジャッジメントや、法律問題としての判決は、裁判官が陪審をコントロールするための手段として重要な意味を持つという意見がある[126]。
     
    統計
    アメリカの刑事事件では、多くが司法取引で解決され、また取り下げられる事件も多いため、トライアル(陪審又は裁判官による事実審理)が開かれる割合はわずかである。
    また、民事事件でも、事件の大多数が和解等で終わるため、トライアルに至る事件は少なく、その中でも陪審によるトライアルが行われるのは少数である[127]。

    セフレ
    統計
    アメリカの刑事事件では、多くが司法取引で解決され、また取り下げられる事件も多いため、トライアル(陪審又は裁判官による事実審理)が開かれる割合はわずかである。
    また、民事事件でも、事件の大多数が和解等で終わるため、トライアルに至る事件は少なく、その中でも陪審によるトライアルが行われるのは少数である[127] 連邦地方裁判所と、州の一般管轄を有する裁判所(地方裁判所に相当)における刑事・民事の各新受件数及び陪審トライアルの件数をそれぞれ合計すると、次のようになっている(1999年のデータ)。
    連邦及び州裁判所における新受件数と陪審トライアル件数(1999年)[128]
    連邦地裁          州の一般管轄裁判所
    新受件数 陪審トライアル 新受件数 陪審トライアル
    刑事 59,923 3,268 4,924,710 54,625
    民事 260,271 4,000 7,171,842 33,125
    合計 320,194 7,268 12,096,552 87,750
    さらに、近年、トライアル(特に陪審トライアル)の減少が指摘されている[129]。
    連邦地方裁判所におけるトライアルの件数と、その新受件数に対する割合は次のようになっており、陪審トライアルは件数、割合ともに減少傾向にあることが窺われる[130]。
    同様に、州裁判所でも陪審トライアルは減少傾向にある。
    州裁判所を対象とした調査によれば、刑事事件(23州のデータ)では、1976件から2002年までの間に、既済件数が急増する一方、陪審・裁判官ともにトライアル件数は減少し、うち重罪事件(13州のデータ)について見ると、1976年には既済件数に対するトライアルの件数の割合が約9%(陪審5.2%、裁判官3.7%)であったのに対し、2002年には約3%(陪審2.2%、裁判官1.0%)まで減少していた[131]。
    民事事件(22州のデータ)でも、事件数の増加に対しトライアルは減少し、うち一般事件(10州のデータ)について見ると、1992年に既済件数に対するトライアルの件数の割合が約6%(陪審1.8%、裁判官4.3%)であったのに対し、2002年には約5.6%(陪審1.3%、裁判官4.3%)となっている。
    それでも、推計によれば、毎年約500万人のアメリカ人が陪審員候補者として裁判所に出頭し、うち約100万人が陪審員に選任されている。
    1999年に行われたアメリカ人1800人を対象とした調査では、24%が陪審員を経験したことがあると答えた。
    別の2004年の調査では、47%が陪審員を経験したことがあると答え、また多くが陪審制について肯定的な見方をしていることが分かった。
    セフレについてを考えてみる。


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